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 ≪一寸庵閑話≫  

         
ショスタコーヴィチの『2枚舌』   
    
                                                      
2021 -1-23  記 ケン・シェイクスビア   

 

▼『大人気のロシアの作曲家を3人挙げて』といえば、チャイコフスキー(1840~1893)とショスタコーヴィチ(1906~1975)、さらにロシア革命でロシアを離れ、アメリカで亡くなったラフマニノフ(1873~1943)の3人にしましょうか。

▼ショスタコーヴィチは生涯に15曲の交響曲を作曲しましたが、一番人気があるのは『交響曲第5番ニ短調 作品47』ですね。1937年11月ロシア革命20周年記念としてムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニ―交響楽団で初演し大成功でした。

ビゼーの歌劇『カルメン』の第1幕、ヒロイン・カルメンは『ハバネラ』で『私に惚れられたら用心しなさい!』とバックの合唱とともに歌います。「ラ・レ・ミ・ファ#」という旋律には『用心しろ!』という歌詞がついています。

ショスタコーヴィチは第4楽章で「ラ・レ・ミ・ファ」の短調から「ラ・レ・ミ・ファ#」の長調に転調させます。それを252回のラ』の連打と組み合わせるのです。


  ショスタコーヴィチ 


▼ロシア文学者・亀山郁夫さんは、第4楽章で252回繰り返される8分音符の『ラ』の音。Aは、古いロシア語では『われ』で、現代ロシア語では『Я』です。『私は信じない。社会主義の理想を。社会主義という現実を』というショスタコーヴィチ自らの政治信条を音楽、楽譜にこめたと推測しています。

1936年ショスタコーヴィチは「体制への反逆者」として音楽作品だけでなく音楽家、人間として攻められていました。彼は云います。『これ(交響曲第5番)が私の創造的回答だ』と・・・。

▼ショスタコーヴィチが1949年に作曲した『オラトリオ 森の歌』はスターリンの植林事業を讃える作品で7曲構成です。バスの太い声で始まり、4曲目『ピオネールは木を植える』は明るく元気な児童たちの合唱です。この作品は絶賛され、彼は批判・冷遇されることから再び解放され名誉を回復します。しかし、初演後、ショスタコーヴィチはホテルでひとり屈辱感に泣き、ウオッカをあおったとか。

1953年にスターリンが亡くなるとフルシチョフの「スターリン批判」が起こり、東西雪解けの大きな流れとなります。1962年にショスタコーヴィチは、『森の歌』のスターリンを賛美する歌詞を変更します。

 また、1955年ショスタコーヴィチは映画『第1軍用列車』のなかの1曲に軽妙なサックスで始まる『ワルツ第2番』を作曲しました。これはユダヤ人の音楽『クレズマー』の響きを感じさせると評価されています。

▼ショスタコーヴィチの70年の人生は、まさに枠や縛りをすべて取り払おうとする芸術家の権力とのたたかいでした。『たとえ両腕を切り取られても、それでも僕は音楽を書くでしょう。ペンを歯でくわえて』と。『表現の自由』を求めた命をかけたたたかいでした。

みなさん ぜひYou Tubeで聴いてみてください。  (完)