ところざわ倶楽部          投稿作品       エッセイ&オピニオン


「夫が旅立って」

                   2020-5-27 記 吉田 文枝

   


 昨年暮れに夫が亡くなった。これまで一人で琴三味線店を営み、仕事まっしぐら。中年以降はいくつも大きな病気をしつつ、何とか危機を乗り越えてきた。多くの方々から、仕事復帰を期待されていたが、その願いはかなわなかった。

 悪性リンパ腫(T-難治性)と診断され、7ヶ月あまりの闘病生活だった。じっとしていることが得意ではない夫にとって、入院生活は忍耐の日々だったと思うが、泣き言を言わずよく耐えていた。再び仕事をしたいという思いで、がんばっていたのだと思う。ひたすらお客様のことを考え、要望に対応し、学校での講座のお手伝いなど、邦楽の振興のために尽くしてきた。演奏会でも、かゆいところに手が届く仕事ぶりで、演奏会を手伝い、傍らで見てきた息子は、そこまでやるの?と感じることも多かったようだ。

 そんな夫に先立たれ、息子と相談し、琴屋を続けることにした。というのも、店の整理、片付けをしてみると、在庫が山のようにある。掃除、在庫の把握、整理は半端なく大仕事だったが、夫の気持ちを思うと、楽器の処分は忍びなく、少しでも販売、行き先を見つけるなどしたい。幸い息子は、夫が教えたお琴の糸締めの技術がある。これまでおつきあいのある方々にも、ご不便をかけないよう事業を続けていくことを決めた。おかげで、仕事がらみで夫の話になり、こうだったね、ああだったねと話す機会も多く、夫の存在を身近に感じることができる。

 そして、このコロナ禍、3月末までは何とか仕事があったが、その後は電話もなく、仕事はさっぱり。学校へ納入する予定のものも2ヶ月先送りとなっている。まあ、慣れない二人だから、ゆっくりやっていこう、と今は思っている。

 その昔、結婚披露宴の時に、友人たちの前で、「好きな仕事を精一杯やれるよう支えていきたい」と言ったことを思い出す。支える力が不十分だったからか、夫はたくさんの仕事を残していった。やるべきことを与えてくれて感謝するべきなのか?本当のところは、在庫はほどほどにしておいてほしかった気もするが、息子と共に、できる限りがんばってみようと思う。

 最後に、よろしければ、気分転換にお箏の合奏曲をお聴きください。


 テレビアニメ「この音とまれ!」の「流星群」という曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=InL5ySGGSzQ