ところざわ倶楽部          投稿作品       エッセイ&オピニオン

           「古楽器の魅力」
                                                      
                                          2017 6-23  
記 特別会員 笠松 泰洋


 9月にところざわ倶楽部の10周年で上演される「ハーメルンの笛吹きおとこ」は、リコーダー、バロックオーボエ、

ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロの4つの古楽器の合奏のために書かれています。そして、その名手たちによって演奏

されます。

   

リコーダー               バロックオーボエ



    
 
    ヴィオラ・ダ・ガンバ           チェンバロ                 



 古楽器は、ピリオド楽器、オリジナル楽器とも呼ばれます。現在クラシック音楽で使用されているピアノやヴァイオリ

ン、クラリネットなどの楽器は、改良を重ねて、より豊かな音、より大きな音量が出るように20世紀になり完成された

ものが多いのですが、例えばバッハやベードーヴェンなど、17世紀、18世紀、そして意外ですが19世紀のシューマ

ンやブラームスといったロマン派後期の作曲家の作品でも、実は今とはかなり違う楽器で演奏されていました。



 作曲家が作った当時の楽器でその曲を演奏するのが、正統な演奏ではないのか、という考えに基づいて、当時の楽器の

再現、そしてその楽器での演奏をするようになったのは、戦後の潮流ですが、今、それが花開いているのです。楽器の機

能の違いにより、演奏法も異なるのですが、今では、ピリオド奏法と呼ばれる、当時の演奏スタイルを現代のオーケスト

ラ(モダン楽器のオーケストラ、と言います)が、楽器はモダンのままで取り入れることも珍しくなくなってきました。

例えば、弦楽器のヴィブラートの付け方などです。


 そもそも、室内楽と呼ばれるジャンルは、音楽ホールではなく、貴族や王族の室内で演奏されるものでした。とても近

い距離で、狭い空間で演奏されます。実際には、じっくり聴く、というより、今で言うBGMのような存在だったとも言

われています。大きな音量は必要なかったのです。弦楽器やピアノは、弦を張る張力が今の楽器より弱く、音量は少ない

のですが、音色的にはより豊かなものがあります。チェンバロからピアノが生まれたのも、実は、金属加工の技術の発達

があって生じたことなのです。ヴァイオリンの弦が全て金属になったのは、驚くことに20世紀のことです。クライスラ

ーは、死ぬまでE線はガット弦だったということです。今私達が聴くヴァイオリンの音は、実は、科学の発達により、細

くて強い金属素材の針金が開発された1930年以降にようやく出来たものなのです。ストラディヴァリウスなどは、

300~400年前の楽器なのですが、実は、全部、弦を巻く部分は、本体から切り取り、角度を変えて再び取り付ける、と

いう処置が施されています。



 古楽器は、モダン楽器と比べると、余計な倍音や雑音とされるものも含みますが、その音色は、しばらく聴いていると

とても人間になじみます。生き物の成分から出来たものから出ている音なのですから。リコーダーは17世紀とほぼ同じ

形で存続しています。バロックオーボエも、近年、昔の楽器を復元する形で多く使われるようになってきました。今のオ

ーボエとはちょっと違う、のどかで暖かい響きがします。こういった音色が現代に蘇り、愛好されている理由は、とても

分かる気がしませんか?我々人間が、本当に必要なものを求め出しているからだと私には思えます。



            (本投稿は、広場7月号にも掲載しております)