民話の会 民話紹介コーナー

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3.とんぼの宿り木

        
  おーい、おめえさんたち、ここへやべー。

こんだぁ、まっとおもしれえ話してやんべーなあ。

 

       
  2  あのな、所沢には、北秋津という地名があんべー。
ほんとうはな、はなっから北秋津ちゅうんじゃねぇんだぞ。
おめえさんらそのわけしってんか、
そのわけ、これから話してやんべー。
その話はな、そりゃえれえ昔のことでなー。


おめえさんらのおっかあや、じいさまがまだ生まれねぇ、まっとずぅつとめえの
昔のことだ。

この村の名前は本当はな、秋津村と言ってたんだぞ。でもってな「秋津」ちゅうのは、
昔の言葉じゃな、おめえさんらの知っているトンボのことを指してたんだなー。

だから、この村の名前は「トンボ村」と言っても間違えあんめー。

       
  3  そのトンボ村にな、これまた大昔、そりゃそりゃ、えれー我ままなお殿様が
ござらっしゃつて、めぇ日めぇ日、我ままばかり。
それどころじゃねぇ、
えれー癇癪持ちで、家来や村の衆をこまらせていた。


ある秋に、そりゃまぁ雲一つねえ、きれえに晴れ上がった朝っぱら、
お殿様が庭先で ぶらーりぶらり散歩しているとなー、目のめえにトンボが
すーっと飛んで行った。
       
  4  お殿様は急にそのトンボが欲しくなって、家来の者に
「村中にいるトンボを全部とっつかまえてこい」と、言いつけたんだなー。

いつもの我ままが始まった。あの我まま殿様だ、へたー逆らうと、

あにこくかわかりゃーしねえ。家来は村中に立て札を建てて、
村の者に「村中にいるトンボを全部とれ」とお触れをだした。
       
  次の日の朝っぱらから、しかたぁなく、忙しい野良仕事をやめてな、じいさまもばあさまも、 おとこしもおんなしも、それからな、めどっこも、やろっこも年はのいかねえガキまでもがな、 いっしょくたになってトンボ捕りが始まった。
えれぇことになったなぁ。この畑仕事のこ忙しい時期に、
「わがんま殿様には困ったもんじゃ」

「でもなぁ、殿様に言われた通り、トンボとるしかあんめぇ」

「や~い、今、そっちにトンボが飛んで行ったぞ、つかまえてくれぇ」
「よ~し、ほっ、とれた、とれたぞ~」
「おらたちも、網を使って、こんなにとれたよ~」
「いっぺえ~とれたなぁ。
もうこの辺にぁ、トンボは一匹もいなくなったんじゃあんめぇか~」

家来や村の人が精出して、骨折ったかいもあり、あたりがうすっ暗くなるころには、
トンボをすっかりとりきった。
       
  6  家来や村の衆はほっとして、ひっつかまえたトンボを全部袋に入れてな、
「お殿様、これが秋津村のトンボ、全部でごぜえます」と、
殿様のめえに差し出したんだなぁ。


殿様は、「でかしたぞ、よくやったぁ、ふむふむ」と、しこたま喜んで、
集まったトンボの袋をのぞっこいていると、どうした訳かな、
一匹のトンボが殿様のめえをすーと飛んでいるじゃねえか。

 

       
  それを見たとたん、殿様はいつもの癇癪をおこし始めた。

「な、なんだ、あれは。まだトンボがいるではないか~、けしからん」と、言って、

カンカンに怒った殿様はトンボの袋を近くの日月(じつげつ)神社(じんじゃ)へ持って行ってな、そこに生えている 御神木のケヤキの前に突っ立って、ありったけの声を出してな
怒鳴りつけたんだと。
「これ、日月(じつげつ)神社(じんじゃ)大明神(だいみょうじん)よ、
おめえさまに本当に、神の力があるなら、今、わしがぶんなげる

トンボのかたまりのぶつかった所から、違った木い生やしてみろ。
できなかったら、こんな神社
、ぶっこわしちゃうぞ」

癇癪持ちのお殿様は、そうこきながら、日月神社の御神木に、
思いっきりトンボの袋をこきつけた。
       
  8  するとな、きてえなことに、御神木のケヤキの枝の股から、エノキの木の枝が、
にょっきにょっきにょっきと生え出しやがった。
「なっ、なんだこれはぁ」
さすがの殿様も、真っつぁおになって、口をあけて、ポカーンとしてしまった。   家来も村の衆もあんまりの恐ろしさに、皆、うったまげて、その場につっぷしてな、

がたがた震えていたんだなぁ。
ところがなぁ、まっときてぇな事がおこったぞ。
あの我まま殿様がな、エノキの木を指さしたまま石のように固くなっちまって、
それっきり、あんにも動かなくなったんだと。

我ままばかりこいていたから、多分、神様のバチがあたったんだべー。
おめえさんたち、我ままこいてんといけねえぞ。
きっと、この我まま殿様のようになったら、たいへんだからなぁ。

うんうん、それから、ぶっつけられたトンボはどうしたかって。
       
  そりゃあぁもう、トンボはあきれけえって、一匹残らず、川向こうの南の方へ
飛んで行ってしまった。
だからな、秋津村には一匹のトンボもいなくなってしまったんだ。


そんな事でなー、トンボの飛んで行った村ぁは「南秋津村」と言うようになった。

もとの秋津村のことを「北秋津村」と言うようになったんだとよー。

 

       
  10  そんでもってな、このおじさんがなぁ、まだガキの頃だ。
やろっこ八人ぐらいでも抱えきんねぇ、おおーきなケヤキがなぁ、
日月神社の庭っつぁきに
あってな、よーく遊んだもんだぁ。

そんでもってな、この大きなケヤキの木の途中から、ほんとにエノキの木が
生えてたんだぞー。


だからこの話、本当かもしんねぇなー。
       
  11  じゃ、この話はこれでおしめいだ。

どうだ、面白かったか。

またこんど、まっとおもしれぇ話してやんべー。